
企業の成長を後押しするIPO(新規株式公開)。その準備の裏側では、税理士が会計・税務の専門家として重要な役割を担っています。IPO業務は難易度が高い一方、身につくスキルや市場価値は大きく、キャリアを広げてくれます。 そこで今回は、税理士が担うIPO業務の内容や身につくスキル、キャリアパスまでをわかりやすく解説いたします。IPO業務に興味をお持ちの方は、本記事でぜひご確認ください。

IPO(新規株式公開)とは?

税理士としてIPO業務に興味をお持ちの方も、まずは「そもそもIPOとは何か」を整理しておくとイメージが掴みやすくなります。ここでは、IPOの基本的な意味や企業が上場を目指す理由、上場までの大まかな流れをご紹介します。
IPOとは?
IPO(Initial Public Offering/新規株式公開)とは、これまで特定の株主だけが保有していた企業の株式を、証券取引所に上場して不特定多数の投資家が自由に売買できるようにすることを指します。上場すると、市場を通じて広く資金を集められるようになる一方で、法令遵守やディスクロージャー(情報開示)が義務づけられ、企業には高い透明性が求められるようになります。
上場は決して簡単な道のりではありません。日本国内の上場会社数は約3,900社で、これは国内の全会社数のわずか0.1%以下にあたります。2025年に一般市場へ新規上場した企業数は65社にとどまっており、上場がいかに「狭き門」であるかがうかがえます。
出典:EY Japan「日本の新規上場動向 - 2025年1月~12月」
企業が上場(IPO)を目指す理由とメリット
企業が多くの労力をかけてまで上場を目指すのは、それに見合うメリットがあるためです。主な理由として、次の3つが挙げられます。
巨額の事業資金を調達できる
市場から広く資金を集めることで、事業拡大・設備投資・人材獲得・研究開発といった成長投資が可能になります。銀行融資などと異なり、原則として返済義務がない点も大きな魅力と言えるでしょう。
知名度と社会的信用が向上する
「上場企業」というステータスは取引先や顧客からの信頼につながり、販売促進や優秀な人材の採用を後押しします。
創業者はキャピタルゲインが得られる
上場によって、創業者が保有していた株式を市場で売却し、利益を確定できるようになります。上場によって得られるキャピタルゲインは巨額になることが多く、数億円~数十億円に上ることもあります。
大まかなIPOの流れ
IPOは、思い立ってすぐに実現できるものではありません。上場を決定してから実際に上場するまでには、最低でも3〜5年ほどの期間を要するのが一般的です。その間、社内外の専門人材でプロジェクトチームを組み、準備を進めていきます。
大まかな流れとしては、ショートレビュー(上場に向けた課題の洗い出し)から始まり、主幹事証券会社の決定、N-2期(直前々期)の監査、N-1期(直前期)の監査、上場申請、そして上場承認へと進んでいきます。各フェーズで会計・税務・内部統制など幅広い対応が求められるため、税理士をはじめとする専門家の関与が欠かせません。
IPO関連で税理士が担う具体的な業務

IPOの準備段階では、税理士に多岐にわたる専門的な役割が求められます。ここでは、税理士がIPO関連で担う代表的な業務を5つに分けてご紹介します。
会計基準の変更への対応
上場を目指す企業には、これまでの申告を目的とした税務会計から、投資家保護を目的とする企業会計への転換が求められます。具体的には、資産の評価方法や会計処理を上場基準に合わせて変更したり、決算を早期化・高度化したりといった対応が必要になります。
また、上場後は顧問税理士へのアウトソーシングに頼るのではなく、自社で財務諸表を作成できる体制を整えることが義務づけられます。税理士は、こうした社内体制の構築を支援する重要な役割を担う存在です。
資本政策やストックオプションのアドバイス
株主構成や資金調達の設計といった資本政策は、一度実行するとやり直しがきかず、非常に高い専門性が求められる領域です。特にストックオプションは、税制適格の要件から外れてしまうと、創業者やストックオプションを行使した社員に多額の税金がかかってしまう可能性があります。 税理士は税務の観点からアドバイスを行い、税法上の要件を満たしながら最適な資本政策を設計していきます。専門知識が成否を分ける、責任の大きな業務と言えるでしょう。
過去の税務リスクの精査(税務デューデリジェンス)
上場審査では、過去の税務申告に問題がないかどうかも厳しくチェックされます。そのため税理士は、過去の税務申告のずれや経費の否認リスクを精査する「税務デューデリジェンス」を行います。
仮に重大な申告漏れなどが発覚した場合、上場が延期・中止になってしまう可能性もあります。企業が安心して上場準備を進められるよう、リスクを事前に洗い出す大切な業務です。
監査法人・証券会社などとの連携
IPO準備では、既存の経理部だけでは対応しきれない高度な業務が数多く発生します。税理士は、監査法人からの質疑応答への対応や、税務関係書類・開示書類の税務パートの作成・チェックなどを担い、外部の専門家との橋渡し役を務めます。
IPO後のサポート
税理士の役割は、上場すれば終わりというわけではありません。上場後も経営環境や税務・法律は複雑化し続けるため、引き続き税理士による支援が必要になります。
上場後は、税務コンプライアンスを適正に守りながら、財務報告や監査への対応を行っていきます。さらに、財務戦略や資金調達の面から企業価値向上に向けたアドバイスを実施することもあり、上場企業のパートナーとして長期的に関わっていくことになります。
公認会計士と税理士のIPO業務の違い

IPOの現場では、公認会計士と税理士が連携しながら準備を進めていきます。両者はどちらも会計・税務の専門家ですが、独占業務の違いから、担う領域や立ち位置は大きく異なります。ここでは、その違いを整理してみましょう。
立ち位置と業務の違い
税理士は、企業のパートナーという立場でIPOに関わります。税金の適正化や資本政策の設計といった、企業の内側に立って支援する業務が中心です。企業と同じ方向を向き、上場という目標に向けて伴走する存在と言えるでしょう。
一方、公認会計士は第三者という立場で関わります。企業が作成した財務諸表が正しいかどうかを、独立した立場から検証するのが主な役割です。投資家をはじめとする外部の関係者に対して、財務情報の信頼性を保証する立場にあります。
同じIPOに携わっていても、「企業のパートナーとして支える税理士」と「第三者として検証する公認会計士」という立ち位置の違いがあることを理解しておくと、それぞれの役割がより明確に見えてきます。
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IPO支援により身につく専門スキル

IPO支援は難易度が高い業務である分、携わることで得られるスキルも非常に価値の高いものになります。ここでは、IPO支援を通じて身につく代表的な専門スキルを4つご紹介します。
上場基準の財務会計の実務スキル
上場基準に沿った財務会計への対応を実務で重ねるなかで、投資家への開示に耐えうる水準の会計処理を扱う力が着実に身につきます。会社の決算を上場企業として通用するレベルへと引き上げる、実践的なスキルと言えるでしょう。
さらに、監査法人を納得させるためには、なぜその会計処理が適切なのかをロジカルに証明・説明する力も欠かせません。数字の背景を筋道立てて伝えるスキルが、実践のなかで磨かれていきます。
制度化・仕組みの設計スキル
監査に対応するためには、業務フローを可視化し、標準化していく作業が必要になります。IPO支援に携わることで、こうした制度づくりや仕組みの設計スキルが身につきます。
セキュリティやガバナンスと、現場の実際の状況とのバランスを踏まえながら、適切なルールを設計する力は、上場企業だけでなくさまざまな組織で活かせる汎用性の高いスキルと言えるでしょう。
異なる専門家との高度な交渉・調整スキル
IPOの業務では、監査法人や証券会社など、多くの外部専門家との調整を行います。利害関係者の人数も多く、数多くのタスクを期日までに完了させなければなりません。
専門用語を関係者にわかりやすく翻訳したり、立場の異なる専門家同士の妥協点を探ったりと、高度な交渉・調整能力が求められます。こうした経験は、その後のキャリアでも大きな強みになります。
高い専門性の経営アドバイザリースキル
IPO支援では、将来的な企業価値の最大化も視野に入れながら、税務の観点から高い専門性でアドバイスを行う力が求められます。
経営の意思決定を左右する重要な局面で、専門知識をもとに的確な助言を提供する経験は、通常の税務業務ではなかなか得られないものです。こうした経営の根幹に関わるアドバイザリーを担うことで、税理士としての専門性は一段と高いレベルへと引き上げられていきます。
IPO支援を経験した税理士のキャリア

IPO支援の経験は、税理士としてのキャリアに大きな広がりをもたらします。ここでは、IPO支援を経験した税理士に開かれる代表的なキャリアの選択肢をご紹介します。
希少性の高い税理士として働く
IPO準備に携われる機会は限られており、税務領域を担える人材は転職市場で非常に希少です。そのため、IPOに特化した税理士法人やコンサルティングファームからの募集ニーズは強く、経験者は高く評価される傾向にあります。
希少性が高い人材であるほど、年収水準も大きく上がりやすくなります。IPO支援の経験は、税理士としての市場価値を高める強力な武器になると言えるでしょう。
事業企業でCFOや管理本部長となる
IPO支援の経験は、事業会社で経営の中枢を担うポジションへの道も開きます。CFO(最高財務責任者)や管理本部長など、企業の経営を支える立場でのニーズも存在します。
監査法人や証券会社とやり取りしてきた経験は、管理部門の責任者としても高く評価されます。さらに、事業会社の役員としてIPOを成功に導いた場合には、多額のキャピタルゲインを得られる可能性もあります。専門性を活かしながら、経営者に近い立場でキャリアを築ける点は大きな魅力と言えるでしょう。
税理士がIPOに携わることができる場所
「IPO業務に関わってみたい」と考えたとき、実際にどのような場所で経験を積めるのかが気になる方も多いのではないでしょうか。ここでは、税理士がIPOに携わることのできる代表的な3つの場所をご紹介します。
IPO特化の税理士法人
大手・準大手の税理士法人のなかには、IPO支援や財務デューデリジェンスに特化した専門部署を持つところがあります。こうした環境では、各専門分野の経験を複数の案件で積み重ねられる点が大きな魅力です。
専門チームの一員として実務に携わることで、体系的にIPO支援のノウハウを習得しやすい環境と言えるでしょう。
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IPO準備企業
インハウス税理士(社内税理士)やCFO、管理部長などのポジションで、IPO準備中の事業会社に入る道もあります。社内に入ることで、外部からは得られない実務面の経験を積める点が特徴です。
成功すればキャピタルゲインを得られる可能性がある一方で、IPOの計画は途中で頓挫することも少なくありません。リターンとリスクの両面をよく理解したうえで検討することが大切と言えるでしょう。
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FAS・財務コンサルティング会社
税務申告の実務から離れ、IPOコンサルタントとして案件に携わる道もあります。FAS(フィナンシャル・アドバイザリー・サービス)や財務コンサルティング会社では、税理士として財務デューデリジェンスや企業価値算定、資本政策のアドバイスといった業務を行います。 資金調達に関するスキルを獲得できるうえ、複数の案件を経験しやすい環境です。より広い視野で企業の成長に関わりたい方に向いていると言えるでしょう。
よくある質問

税理士のIPO業務について、よく寄せられる疑問にお答えします。
Q. IPO未経験の税理士でも、IPO業務に関われますか?
A. 関わることは十分に可能です。特に20〜30代の若手向けには、IPO未経験可の求人も存在し、関われる可能性があります。一方で、税務責任者などの中核ポジションではIPO経験が重視される傾向が強いため、まずは未経験可の求人から経験を積み、段階的にステップアップしていくのがおすすめです。
Q. IPO業務に税理士資格は必須ですか?
A. 必須ではありません。ただし、税務申告・資本政策・資産税対応など、税理士の専門性が活きる場面は数多くあります。また、科目合格者でも、経理・財務人材として準備フェーズに携われるルートがあります。資格の有無にかかわらず、専門知識を活かせる機会は広く開かれていると言えるでしょう。
Q. IPO準備に関わる上で、税務以外にどんな知識が必要ですか?
A. 会社法や企業会計、内部統制、資本政策、開示実務など、幅広い知識が求められます。税務の専門性を軸としつつ、こうした周辺領域の知識を少しずつ広げていくことで、IPO準備の現場で活躍できる幅が着実に広がっていくでしょう。
Q. IPO支援の経験は、転職市場でどの程度評価されますか?
A. 非常に高く評価されます。税務領域まで担えるIPO経験者は市場でも限られており、専門性の高い人材として、年収アップにもつながりやすいのが実情です。
Q. IPO経験を積んだ後は、どのようなキャリアに進めますか?
A. 別のIPO候補企業の管理部門の中核、上場企業の高度専門職(税務責任者・財務企画・グループ管理など)、FASや税理士法人のIPO支援チーム、さらには独立まで、多様な道が開かれています。いずれも高年収につながりやすく、キャリアの可能性が大きく広がる点が特徴です。
まとめ

本記事では、税理士のIPO業務について、IPOの基本から税理士が担う具体的な業務、身につくスキル、キャリアパスまで幅広くご紹介しました。
IPOは上場までに3〜5年を要する狭き門であり、その準備段階では、会計基準の変更対応や資本政策の設計、税務デューデリジェンスなど、税理士の専門性が発揮される場面が数多くあります。企業のパートナーとして上場を支える税理士の役割は、非常に大きなものと言えるでしょう。
また、IPO支援を経験できる税理士は転職市場で希少な存在であり、その市場価値は高く評価されます。IPO特化の税理士法人やIPO準備企業、FAS・財務コンサルティング会社など、経験を積める場所も多様に広がっています。IPO業務を通じて得られる専門スキルは、CFOや管理本部長、独立など、その後のキャリアの選択肢を大きく広げてくれます。
IPO未経験からでも挑戦できる求人は存在します。「専門性を高めたい」「キャリアの幅を広げたい」とお考えの方は、IPO業務への一歩を検討してみてはいかがでしょうか。会計業界に特化した転職エージェントに相談すれば、ご自身の経験や希望に合った求人やキャリアのアドバイスが得られるかもしれません。
