簿記を活かせる仕事とは?簿記の種類や難易度、就職先についても解説!

2024年11月18日(記事更新日:2024年11月18日)

簿記は企業の規模や業種にかかわらず、日々の経営活動を記録し、財政状態や経営成績を明らかにする技術です。企業の事務職として簿記を活かすだけでなく、ビジネススキルの向上やキャリアアップにも役立ちます。
本記事では、簿記検定の概要やメリットを解説します。簿記資格取得後に活かせる仕事を紹介していますので、就職や転職に役立ててください。

簿記とは?

簿記は企業の経済活動を一定のルールに則って帳簿に記録する技術です。どの企業も簿記を使って取引内容を記録するため、経営や財務の状況が明らかになります。
最終的には、資産状況をまとめた貸借対照表と企業の利益を記載した損益計算書から、決算書の作成が必要です。
企業の事務職だけでなく経営者や中間管理職の方も簿記の知識を身につけることで、自社や競合他社の財務諸表を読み解き、最適な意思決定に利用できます。

単式簿記と複式簿記の違い

簿記には単式簿記(たんしきぼき)と複式簿記(ふくしきぼき)の記帳ルールが存在します。単式簿記はお小遣い帳のような簡単な内訳とお金の出入りだけを記録する簡易的な手法である一方、複式簿記は一つの取引を2つの側面から捉える手法です。

複式簿記では、自社商品を売り上げた場合、「商品の売上」と「現金の入金」の2面で取引を見ていく必要があります。商品が「売上」として計上され、現金を受け取った場合は、売上が計上され現金(資産)が増えたとして記録します。
このようにお金の出入りだけの単純な動きだけでなく、資産の増加や減少をあらわす財産の状況も把握できるのがメリットです。

商業簿記と工業簿記の違い

記録方法以外にも、簿記は業種ごとに「商業簿記」「工業簿記」に分類されます。
商業簿記は、商品の仕入れと販売をメインとする商業経営をおこなう企業を対象とした方法です。
工業簿記は、自社で製品を製造、販売するまでの流れをメインとする製造業を対象としており、製品1個あたりにいくらの費用がかかるのかを計算する原価計算を用います。

簿記検定の種類

簿記には主催団体が異なる3つの検定があり、それぞれ受験者層や受験料、出題範囲が異なります。
簿記検定を受験する前に、どのような試験なのか確認しておきましょう。

日商簿記

日商(にっしょう)簿記は、2,900万人以上の方が受験してきた日本商工会議所が主催する簿記検定です。
大学生、社会人、企業の経理担当者など幅広い層が多く受験しており、企業の採用担当者にも広く認知されています。

試験は1級、2級、3級、簿記初級、原価計算初級の5つで構成されています。

1級2級3級
出題科目商業簿記
会計学
工業簿記
原価計算
商業簿記
工業簿記
商業簿記
試験時間商業簿記・会計学:90分
工業簿記・原価計算:90分
各90分60分
受験料8,800円5,500円3,300円
合格基準70%以上、
かつ1科目ごとの得点が40%以上
70%以上70%以上
合格率の目安約10〜15%約15〜25%約35〜40%

参考:商工会議所の検定試験 

勉強時間の目安は1級で約400〜1,000時間、2級で約100〜200時間、3級で50〜100時間です。1級、2級、3級は統一試験(年3回)とネット試験(2級・3級のみ)の両方で実施されているため、受験しやすい方法で簿記資格取得を目指しましょう。

全経簿記

全経(ぜんけい)簿記検定は、公益社団法人全国経理教育協会が主催する簿記検定です。経理や会計の専門学校に通う学生、企業の経理担当者などがメインに受験しています。もちろん、一般の方も受験可能です。
ただし、日商簿記ほど認知度が高くないため、取得してもキャリアには活かしにくい側面もあります。

試験は上級、1級、2級、3級、基礎簿記会計の5つで構成されています。

上級1級2級3級
出題科目商業簿記
財務会計
原価計算
管理会計
商業簿記
財務会計
原価計算
管理会計
商業簿記
工業簿記
商業簿記
試験時間商業簿記・財務会計:90分
原価計算・管理会計:90分
商業簿記・財務会計:90分
原価計算・管理会計:90分
各90分90分
受験料7,800円商業簿記・財務会計:2,600円
原価計算・管理会計:2,600円
各2,200円
(ネット試験では各3,400円)
2,000円
(ネット試験は3,200円)
合格基準合計得点が280点以上かつ、
1科目の得点が40点以上
70点以上70点以上70点以上
合格率の目安約10〜15%商業簿記・財務会計:約25〜60%
原価計算・管理会計:約45〜65%
商業簿記:約40〜55%
工業簿記:約65〜90%
約50〜70%

参考:全国経理教育協会 全経簿記能力検定 

勉強時間の目安は上級であれば約500時間、1級であれば約200時間ほどです。全経簿記上級に合格すれば、税理士試験の受験資格が得られるため、公認会計士や税理士を目指す上での通過点として多くの方が受験する検定です。

全商簿記

全商(ぜんしょう)簿記は、公益財団法人全国商業高等学校協会が主催しています。高校で使用している教科書に沿った内容が出題されるため、主な受験層は商業高校に通学する高校生です。
履歴書には書けるものの、世間的な認知度は低く、一般の人がキャリアには活かしにくい一方で、商業高校生が卒業して、経理職として就職や推薦入試を受ける場合に有利になります。

試験は会計・原価計算、2級、3級の4つで、会計と原価計算の2つの部門に合格すれば、1級取得とみなされます。

会計原価計算2級3級
出題科目会計原価計算商業簿記商業簿記
試験時間90分90分90分90分
受験料1,300円1,300円1,300円1,300円
合格基準70点以上70点以上70点以上70点以上
合格率の目安約40〜45%約35〜45%約35〜55%約50〜75%

参考:全国商業高等学校協会 簿記実務検定試験 

学校で学んだ内容の復習と位置付けられるため、日商簿記と比較して全経簿記は合格しやすくできているのが特徴です。

日商簿記・全経簿記・全商簿記の比較

日商簿記、全経簿記、全商簿記は同じ簿記の知識を問う検定ですが、それぞれの難易度は異なります。

日商簿記全経簿記全商簿記
1級上級
2級1級1級
3級2級2級
簿記初級3級3級
基礎簿記会計

日商簿記1級や全経簿記上級に合格すれば税理士試験の受験資格が得られるため、難易度は高めです。もし、税理士や公認会計士などキャリアアップを目指す方は、日商簿記1級や全経簿記上級を取得しましょう。

簿記の各級に求められる業務スキルは?

簿記は、基本的なことが学べる簿記3級から高度な知識が必要な簿記1級まで、各級により学ぶ内容が異なります。
求められる業務スキルから、受験に適した日商簿記のレベルを確認してみましょう。

日商簿記3級

簿記3級は、基礎的な商業簿記の知識が身に付く初心者向けの簿記検定で、業種・職種にかかわらず身につけておきたいビジネススキルのひとつです。個人商店や中小企業などの小規模企業の企業活動や会計、経理書類の適切な処理をおこなえるレベルを目指せます。

検定では、商業売買をメインとした簿記の基本原理や諸取引の処理方法、簡易的な決算書の作成が求められます。受験者の4割が合格していることから、初心者が始めにチャレンジしやすい資格です。

日商簿記2級

簿記2級は財務諸表から経営状況を読み取り、企業活動や会計実務を踏まえた処理や分析をおこなえる中級レベルの検定試験です。会計や経理業務について適切な処理がおこなえる知識があると認識され、企業から最も求められる資格の一つとされています。

2級は商業簿記とは別に、工業簿記が出題範囲に加わります。商業簿記では3級で出た簿記の基本的な原理や処理方法を踏まえた上で、有価証券、手形の不渡り、減価償却費の計算方法、本支店会計や連結会計などさらに深掘りした内容が含まれるのが特徴です。工業簿記では工業簿記の本質や自社製品の製造を想定した原価計算、分析方法が出題されます。

簿記2級までの取得を目指せば、大企業や製造業を含むすべての企業の会計実務に対応できるため、転職の幅が広がります。

日商簿記1級

簿記1級は、税理士や公認会計士などの国家資格への登竜門とされています。簿記をする上で欠かせない会計基準や会社法など、企業会計に関する法規も含めて経営管理や経営分析をおこなえる難易度の高い級数です。

2級と比較して、極めて難易度の高い商業簿記や会計学、工業簿記、原価計算の4つの分野から出題されます。試験内容も2級で出題された商業簿記の範囲と、キャッシュフロー計算書作成や自己株式の処理など、複数の企業を一つの会社として財務諸表を作成する問題が加わり、複雑な計算が必要です。工業簿記・原価計算は2級の内容に加えて、意思決定をおこなうための分析方法や計算方法が問われます。

簿記1級は、関連会社を保有する大企業の経理や会計、財務における業務にも対応できます。また、税理士の受験資格が得られることから、年収アップやキャリアアップにつながる資格です。

簿記の資格を活かせる仕事

取得した簿記資格は、簿記の知識を専門に扱う経理職や会計事務所・税理士事務所の他にも、金融業界やコンサルティング会社、営業職で活かせます。ここでは簿記の知識を仕事で活用する方法を紹介します。

一般企業の経理・財務・会計

企業は法令により決算が求められるため、すべての企業に経理業務は存在します。企業によって独自のルールややり方はあるものの、経理の根幹には簿記の知識が必要です。

一般企業では伝票の処理、入金や債権債務の消し込み、年次決算の対応などの業務を担当します。業務の中でおこなう税務申告や予算管理でも簿記の知識が必要なことから、仕事の幅も広がります。
また、業界の特性に合わせて、工業簿記や建設業簿記など、商業簿記とは異なる手法が採用されている分野もある点に留意しましょう。

会計・税理士事務所

会計・税理士事務所では、税理士の独占業務以外の業務として、記帳代行や決算書類の作成、経営コンサルティングなどを担当します。税務申告の作成や税務相談などの仕事は税理士資格を保有する人しかできません。しかし、簿記の知識を活かした決算書類の作成はもちろん、企業の経営効率や生産性向上のためのアドバイスはおこなえます。

さらに、簿記は税金について学ぶための基礎です。会計・税理士事務所で知識や実務経験を積み重ねて、税理士資格の取得や公認会計士資格を目指す人も多く存在します。税理士や公認会計士の資格取得後に、独立して自分の事務所を持つといったキャリアパスも見込めます。

銀行、証券、保険会社などの金融業界

銀行、証券、保険会社などの金融業界で仕事をする場合、簿記の知識は財務諸表から顧客の資産状況や経営状態を読み取り、データ分析や商品の提案に役立ちます。

・銀行:金融サービスの提供や融資審査業務をおこなう際に、顧客の信用力や返済能力を財務諸表から読み解く必要がある。
・証券会社:投資先の企業の財務データの分析をおこない、顧客が保有する商品ポートフォリオに対してアドバイスや提案をおこなう。
・保険会社:複利や税金面で簿記の知識を活かして、保険商品の提案をおこなう。

投資アドバイザーやファイナンシャルプランナーなどのプロフェッショナルとしてのキャリアを築いたり、金融業界での知識を活かして他業界に転職したりする道もあります。

コンサルティング会社

コンサルティング会社は、顧客から提供された財務データを分析し、問題点や課題解決を提案する際に、簿記の知識が活かせます。

企業経営のサポートをするコンサルティング会社は、アドバイスや経営戦略をまとめた資料の作成、顧客に向けたプレゼンテーションをおこないます。将来の業績の予測や予算策定などの経営アドバイスや資金繰りの提案をする際に、財務データの読み取り方や経営分析の方法がわかれば便利です。
コンサルティング会社で実績を重ねた後は、上級コンサルタントやプロジェクトの計画・進行を担当するプロジェクトマネージャーへのキャリアパスが見込めます。

一般企業の営業職

企業の営業職が簿記の知識を身につけていれば、自社の製品やサービスを提案するときに、減価償却の方法や節税対策など経済面でのアドバイスができます。

パソコンや複合機の商品を提案する際、相手の予算に合わせて、一括で経費計上できるものか、耐用年数に合わせた減価償却をおこなう価格帯のものがよいのかを見極められます。
新規で法人営業をおこなう場合でも、相手企業に支払い能力があるか見極める与信管理には財務データを読み解く力が必要です。提案の際に財務面での細かい交渉を織り交ぜることで、顧客からの信頼獲得につながります。

簿記の資格を取得するメリット

2022年に株式会社ビズヒッツがおこなったアンケートによると、簿記資格の取得を目指したきっかけとして多かったのは「就職・転職に有利だから」や「仕事で使うから」でした。実際に、企業の財務諸表を読み取り分析できる人材は、人事や採用担当者からも高く評価されます。
ここでは簿記の資格を取得することで得られるメリットを解説します。

出典:株式会社ビズヒッツ「簿記資格に合格した勉強方法に関する意識調査」 

ビジネススキルの向上

簿記の資格を取得することで、仕訳方法や決算書の作成など、基礎的な経理業務がおこなえます。財務諸表の読み解きができるため、会計的な視点でビジネスを見たり、経営状況を分析したりするスキルが身につきます。

簿記は企業の経理や会計担当者のみならず、財務状態や経営成績を知りたい経営者、コスト管理を求められる管理者、利益率を重視する営業担当者が意思決定をするのにも欠かせません。企業によっては資格手当を設定しているため、場合によっては年収アップにつながりま
す。

キャリアアップ、転職等で有利

企業の規模に関わらず、簿記や会計の知識を持つ人へのニーズは高い傾向にあります。一般的に転職で有利になるのは、簿記2級以上です。

上場企業は四半期ごとに財務諸表を開示する義務があります。企業のお金の動きを理解できる人が増えれば、収支を適切に管理し、健全な運営に貢献できる人が多くなるためです。また、就職や転職の募集要項に日商簿記資格を条件としているケースもあり、簿記を取得していれば、応募できる選択肢が広がります。

他の会計業界専門資格へ知識を活用できる

簿記の資格は、税理士や公認会計士といった高難易度の資格を目指す上で基礎となる知識です。日商簿記1級や全経簿記上級に合格すれば、税理士試験の受験資格が獲得できます。

会計業界の専門資格へ活用する以外にも、中小企業診断士試験の財務・会計科目でも使える内容です。中小企業診断士を受験する際にも有利になります。

まとめ

簿記は、企業の財政状態や経営成績を明らかにしていくためには欠かせない技術です。経理未経験の人は、まずは簿記2級を目指して学習プランを立てるとよいでしょう。
また、簿記には伝票の記帳や決算書類の作成だけでなく、商品やサービスの提案や意思決定に必要な分析など、ビジネスパーソンに必要なノウハウが詰まっています。 勉強したことは無駄になりませんので、ぜひ簿記検定にチャレンジし、転職やキャリアパスに役立ててください。

この記事の監修者

伊藤之誉

長野県長野市出身。慶応義塾大学商学部卒業。1998年に国内最大手の税理士事務所(現デロイト トーマツ税理士法人)に入社後、上場企業から中小企業まで多種多様なクライアントに対する申告書作成業務、税務調査立会など法人の税務全般業務に従事。連結納税や国際税務のコンサルティング、個人所得税の申告書作成、税務デューデリジェンス業務にも従事。執筆、外部研修講師なども経験。2011年に伊藤之誉税理士事務所を独立開業 。軽いフットワークを武器に難解な税法をわかりやすくお伝えし、経営者の皆様と共に成長し、喜びをわかちあえることを理想としています。

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