
税理士として「営業」という言葉に苦手意識を感じている方も多いのではないでしょうか。しかし近年、税理士登録者数の増加やITの普及により、顧客が複数の事務所を比較検討しやすい環境が整ってきました。選ばれる努力が求められる時代において、営業力はキャリアアップや独立開業を左右する重要なスキルです。本記事では、オフライン・オンラインの手法から成功のポイント、広告規制まで幅広く解説します。

税理士の営業とは?

近年、税理士登録者数は年々増加傾向にあり、またITの進化によってクラウド会計ソフトや比較サービスも普及してきています。
こうした変化の中で、新規顧客の獲得には従来以上に積極的な姿勢が求められています。
ここでは、税理士特有の営業の難しさや、営業力を身に着けることのメリットを解説します。
税理士業界特有の営業の難しさ
税理士の営業には、他業界とは異なる難しさがあります。単なる売り込みではなく、信頼関係の構築から顧客の課題発見、そして解決策の提示という一連のプロセスが必要です。短期的な成約を目指すだけではなかなかうまくいかないことが多いです。
また、税務・会計サービスは目に見えない「知識と労務の提供」であるため、他事務所との違いが顧客に伝わりにくいという側面もあります。一度顧問税理士を決めた企業・個人は乗り換えを嫌がる傾向があり、既存顧客を持つ事務所からサービスの差を示して新規顧客を獲得することは容易ではありません。
加えて、税理士には広告表現に関する厳しい規制があります。他業界のように大々的な広告キャンペーンを展開することには制約があるため、自社の魅力をどのように伝えるかという工夫が求められます。
こうした複合的な難しさを理解したうえで、自分に合った営業スタイルを見つけていくことが大切です。
税理士が営業力を持つことのメリット
営業力を身につけることには大きなメリットがあります。
AIやITの進化により記帳・申告業務の効率化が進んでいる昨今、税理士に求められる価値の軸が「作業処理能力」から「提案力・コミュニケーション力」へとシフトしつつあります。人との信頼関係を育み、課題を引き出して解決策を提示できる営業力は、今後もより重要性を増していく能力と言えるでしょう。
また、営業力があることで、価格だけではなく強みで選ばれる状態を作れば、サービスの独自性が顧客に伝わります。それにより、値引き交渉に応じる必要が減ることで、高単価案件の獲得にもつながりやすくなります。
独立開業を目指している方にとっても、営業力は欠かせないスキルの一つです。独立後は自分自身が事務所の顔となり、新規顧客を継続的に獲得し続けることが事務所の存続・成長に直結します。勤務税理士として働きながらでも、早い段階から営業の考え方を身につけておくことが、キャリアの幅を広げる一歩になるでしょう。
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営業力のある税理士の転職市場価値

税理士としてのキャリアを考えるとき、資格や実務経験と並んで営業力が転職市場でどのように評価されるかを知っておくことは非常に役立ちます。近年、採用側の事務所・法人が求める人材像が変化しており、営業スキルを持つ税理士への需要が高まってきている傾向があります。
転職を検討している方にとっても、すでに実務で営業に関わってきた方にとっても、自分のスキルがどう評価されるかを把握し、より戦略的なキャリア選択を行いましょう。
営業力・経験のある税理士への採用ニーズが高まる背景
営業力を持つ税理士が採用市場で求められている背景の一つに、税理士事務所・税理士法人の大手化とM&Aの加速があります。事務所の規模が拡大すると、所長一人の人脈や紹介だけに頼った集客では限界が生じます。組織として継続的に新規顧客を獲得するための、体系的な営業体制が必要になってくるのです。
こうした属人的な集客からの脱却を図る事務所が増えている中で、営業専任のスタッフや、営業経験のある税理士を採用することで、安定した案件獲得の仕組みを作ろうとする動きが広がっています。
こうした採用ニーズの変化は、営業力のある税理士にとって大きなチャンスと言えるでしょう。
営業スキルが転職市場での評価にどうつながるか
では、営業力は転職市場においてどのように評価されるのでしょうか。最も大きな特徴は、営業力が数値化しやすいスキルである点です。過去の担当顧客数・新規獲得件数・売上金額など、具体的な実績として提示できるため、採用担当者が客観的に判断しやすいという強みがあります。
その結果、営業スキルを持つ税理士は同年次で営業経験のない税理士と比べて年収差がつきやすい傾向があると言われています。税理士資格+実務経験に「営業実績」が加わることで、転職時の交渉力が高まり、より好条件でのオファーにつながるケースもあります。
これまでの業務の中で新規顧客への提案や関係構築に関わってきた方は、その経験を「営業スキル」として改めて整理し直してみると、転職活動における大きな武器になるかもしれません。自分のキャリアを棚卸しする際には、担当してきた案件や関わった業務の数字をできる限り具体的にまとめておくと良いでしょう。
オフラインでの税理士の営業手法例

税理士の営業手法は大きくオフラインとオンラインに分けられます。まずはオフライン営業について見ていきましょう。オフライン営業の最大の強みは、対面で会うことで人柄や誠実さが伝わりやすい点にあります。価格だけで比較されるのではなく、この人に任せたいと思ってもらえる関係性を築けるのは、対面ならではのメリットと言えるでしょう。
また、実際に顔を合わせることで顧客の本音や潜在的な課題を引き出しやすくなります。会話の中から本当に困っていることが見えてくることも多く、より的確な提案につながることがあります。
①紹介営業
オフライン営業の中でも最も成約率が高く、安定しているのが紹介営業です。既存顧客・他士業・同業者・金融機関など、信頼関係のあるネットワークからの紹介は、顧客の質も安定しやすい傾向があります。紹介された側はすでに一定の信頼感を持って問い合わせてくれるため、ゼロからの関係構築に比べて成約までのハードルが低くなりやすい傾向があります。
紹介を受けやすくなるためには、普段から既存顧客や関係者との信頼関係を丁寧に積み重ねることが大切です。また、得意分野や専門性が明確であるほど「こういう案件なら〇〇先生に」と紹介されやすくなります。
②セミナー・勉強会での顧客開拓
セミナーや勉強会を開催・参加することも、有効な顧客開拓の手段の一つです。専門的なテーマで登壇することで、知識の深さや信頼性を直接アピールできます。テーマ設定によって参加者の属性をある程度コントロールできるため、ターゲットとする顧客層に絞ったアプローチも可能です。
たとえば「相続対策の基礎知識」をテーマにした勉強会なら相続に関心のある層、「スタートアップの税務」なら起業検討者や若手経営者にリーチできます。参加者との質疑応答や懇親会での会話が、関係性をさらに深めその後の顧問契約につながるケースもあるようです。
③士業交流会
税理士・弁護士・司法書士・社会保険労務士など、他士業との交流会に参加することで、業務提携や相互紹介につながる関係を構築できます。自分の専門外の案件をお互いに紹介し合うことで、サービス提供の幅が広がり、顧客満足度の向上にもつながります。
士業交流会は挨拶や名刺交換だけで終わらせず、知り合った人と継続的に関係性を深めていくことが大切です。「この人は信頼できる」と認識されるまでには時間がかかりますが、一度しっかりとした関係ができると、長期にわたって紹介が続く安定した集客チャネルになることがあります。
④訪問営業
新規顧客候補に直接足を運ぶ訪問営業は、地道ではありますが一定の効果が期待できる手法です。エリアを絞る・新設法人に特化するなど、戦略的に対象を絞ることで効率よく動くことができます。
訪問営業を開始してすぐ成約につながることは少なく、ある程度の訪問件数をこなしながら営業継続することが必要です。訪問の際は事務所のパンフレットや得意分野をまとめた資料を持参しておくと、印象が残りやすくなります。
オンラインでの税理士の営業手法例

オフライン営業と並んで重要性が増しているのが、オンラインを活用した営業手法です。オンライン営業の最大の強みは効率の良さにあります。移動時間が不要で、24時間不特定多数のユーザーにアプローチできるため、場所や時間の制約を受けずに情報発信を続けられます。
忙しい実務の合間でも取り組みやすく、営業方法によっては一度作り上げた仕組みが長期的に機能し続けるという特性もあります。自分のペースで少しずつ始められるのも、オンライン営業の魅力の一つと言えるでしょう。
①ホームページ
事務所のホームページは、オンライン営業の基盤となる最も重要なツールの一つです。事務所の概要・サービス内容・得意分野・料金の目安などを掲載することで、問い合わせ前に顧客が情報収集できる窓口となります。近年は顧問税理士を探す際にホームページを確認するのが当たり前になってきているため、ホームページがない事務所は機会損失につながるリスクもあります。
また、ブログやコラムで専門的な情報を定期的に発信することで、専門性の高さや人柄も発信できます。作成したサイトは永続的な資産として機能し続けるため、中長期的な集客の柱になるでしょう。最初から完璧なものを目指す必要はなく、まずは基本的な情報をまとめたシンプルなサイトから始めてみることをおすすめします。
②SNS
X(旧Twitter)・Instagram・FacebookなどのSNSは、無料で始められる手軽さが魅力です。専門的な知識を発信することで認知度が高まり、フォロワーが増えるにつれて見込み顧客との接点が広がっていきます。
テキストや動画を通じて人柄を伝えることもでき、「この人の考え方が好き」「信頼できそう」という印象を持ってもらいやすいのもSNSの特徴です。リアルタイムで情報発信ができるため、税制改正や社会情勢に絡めた発信で専門性をアピールすることもできます。
③広告出稿
Google広告やYahoo!広告などのリスティング広告は、税理士を積極的に探している顕在層に直接アプローチできるのが強みです。「税理士 相談 〇〇市」などのキーワードで検索したユーザーに広告を表示できるため、即効性があると言われています。
一方で、まとまった広告費用が必要になることや、事前に費用対効果を見通しにくいことがデメリットとして挙げられます。広告は出して終わりではなく、クリック率や問い合わせ数などの数字を見ながら改善を繰り返していくことが大切です。ある程度の予算と検証期間を確保したうえで取り組むことが、成果につながります。
④税理士マッチングサイト・紹介サービス
顧客と税理士をつなぐマッチングサービスが近年増えており、営業の工数を大幅に削減できるという点で注目されています。得意分野や対応エリアを登録しておくことで、ニーズが合致した顧客からのアクセスを受けやすくなります。
自分で集客の仕組みを作る手間が省けるため、忙しい実務の中でも活用しやすいのが魅力です。ただし、複数の事務所が並んで比較される環境のため、価格競争に巻き込まれる可能性があることは念頭に置いておくと良いでしょう。手数料が発生するサービスも多いため、費用対効果を見極めながら活用する必要があります。
営業を成功させるためのポイント

さまざまな営業手法を知ったとしても、闇雲に動き始めるだけでは思うような成果につながりにくいのが現実です。税理士の営業をうまく進めるためには、いくつかの共通する土台を整えておくことが大切です。ここでは、実際の営業活動に入る前に押さえておきたいポイントをご紹介します。
事務所の強みを明確にする
営業において最初に取り組んでみたいのは、「自分(自事務所)の強みは何か」を言語化することです。他事務所との違いが明確でなければ、顧客に選ばれる理由を伝えることが難しくなります。専門分野・対応エリア・得意な業種・過去の支援実績など、自分ならではのアピールポイントを整理してみましょう。
強みは必ずしも専門性の高さだけではありません。「相談しやすい雰囲気」「レスポンスの速さ」「丁寧な説明」といったサービスの質の面が差別化ポイントになることもあります。一方で、専門分野を絞り込みすぎると営業範囲が狭くなりすぎるリスクもあるため、バランスを意識することも大切です。
営業ターゲットを明確にする
強みが明確になったら、次は誰に向けて営業するかを定めましょう。得意な業種・業界・企業規模・個人か法人かなど、営業ターゲットを具体的に絞ることで、アプローチ方法やメッセージの精度が上がります。
業界や業種に特化した事務所を目指している場合は特に、ターゲット設定が重要になるでしょう。「どんな顧客のどんな課題を解決できるか」というイメージを持ったうえで営業活動を行うことで、的外れなアプローチを減らし、成約率の向上につながる可能性があります。各ターゲット層への営業結果を振り返りながら、ターゲット設定や営業手法を継続的に改善していくことも大切です。
営業のためのリソース・予算を確保する
営業活動を継続するためには、時間とコストの確保も考えておきたいところです。少し試してみた程度では十分な検証ができず、効果があるかどうかも判断しにくくなることがあります。どの営業手法にどれだけのリソースや予算を割くかを、自身の既存顧客の状況や事務所の規模感に合わせて現実的に計画する必要があります。
特に広告出稿やウェブサイト制作など、費用が発生する施策については、一定期間・一定予算を確保して取り組まないと成果の検証が難しくなります。無理のない範囲で継続できる仕組みを作ることが、長期的な集客力の向上につながります。
まずは営業先との信頼関係を築く
税理士の営業において最も大切にしたいのが、信頼関係の構築です。短期的な成約を焦るよりも、相手のことをしっかり理解し、課題に対して誠実に向き合う姿勢が、結果的に長く続く顧客関係につながるでしょう。
コミュニケーション力やヒアリング力を高め、「この人は自分のことをわかってくれる」と感じてもらえるようにすることが信頼の第一歩です。問い合わせへの迅速な対応・丁寧なフォローアップといった基本的な行動の積み重ねも、信頼を育む大切な要素と言えます。ホームページやSNSなどオンラインでの発信も、顧客が実際に会う前に信頼感を形成するための接点にもなります。
税理士の広告表現で規制・禁止されていること

税理士は公共性の高い専門職であるため、他業界と比べて広告表現に厳しい制限があります。「税理士法」および日本税理士会連合会が定める「税理士の広告に関する指針(広告ガイドライン)」に従った発信が求められており、違反した場合は戒告や業務停止などの懲戒処分を受ける可能性もあります。
営業やマーケティングに力を入れたいとお考えの方ほど、この規制の範囲をしっかり把握しておくことが大切です。意図せず違反してしまわないよう、禁止事項を事前に確認しておきましょう。
禁止されている広告表現
以下の4つは、税理士の広告において禁止されている表現です。
①虚偽表現
事実と異なる実績や資格を掲載することは禁止です。「〇〇の実績あり」「特定の資格保有」など、実態と異なる情報を記載することは避けなければなりません。
②誇大広告
事実であっても、誇張して誤認を与える表現は禁止です。客観的なデータや裏付けのない最上級表現(「業界No.1」「最安値」など)の使用は認められていません。
③他事務所との比較
税理士業界全体や特定の事務所との比較表現は禁止です。自社サイトや広告内に掲載する口コミ・レビューも比較にあたる場合があるため注意が必要です。
④公序良俗に反する広告表現
脱税や租税回避行為を助長するような表現は当然禁止です。誤解を招く節税訴求なども対象になることがあります。
表示してはいけない広告内容
禁止表現に加え、以下の情報は広告・ホームページ等への掲載自体が認められていません。
・税務行政庁在職時の具体的な役職名
・委嘱者の氏名や名称
・過去または現在に取り扱っている案件の詳細
顧客の許可を得た場合でも、これらの情報の掲載には慎重を要します。顧客の信頼を守るという観点からも、掲載内容には細心の注意を払うようにしましょう。
制限されている表現
完全に禁止ではないものの、表現方法に制限がかかる項目もあります。顧問料金の表示については、料金に関する前提条件(対象となる業務範囲・会社規模など)や、別途発生する費用を明示することが求められています。
「月額〇〇円〜」という表記は一般的ですが、「〜」以降の条件が不明確な場合は誤認を招くとして問題になるケースがあります。料金を掲載する際は、適用条件を明確に記載することを意識してください。
出典:日本税理士会連合会 業務対策部
e-GOV法令検索 税理士法
よくある質問

税理士の営業について、よく寄せられる疑問にお答えします。営業活動を始める前の不安や疑問の解消にお役立てください。
Q. 税理士に営業力は必須ですか?
A. 必須というわけではありませんが、営業力を持つことで税理士としての市場価値を大きく高められる可能性があります。勤務税理士として組織の中で働く場合は、必ずしも自分で営業しなくてもよい環境もあります。一方、独立開業を目指している方や、将来的に事務所の規模を拡大したいとお考えの方にとっては、営業力はキャリアの成長を左右するスキルです。
また、転職市場においても営業経験・スキルは高く評価される傾向があります。自分のキャリアの方向性に合わせて、営業力をどのように活かすかを考えましょう。
Q. 税理士の営業で必要なスキルにはどのようなものがありますか?
A. 主に以下の3つのスキルが重要とされています。
①コミュニケーション力:見込み顧客と良好な関係を築き、信頼してもらうための基盤となるスキルです。話すだけでなく、相手の話をきちんと受け止める傾聴力も含まれます。
②ヒアリング力:顧客が抱える課題や本音のニーズを引き出す力です。表面的な要望の背後にある「本当の困りごと」を理解することで、的確な提案ができるようになるでしょう。
③提案力:ヒアリングで把握した課題に対して、自分のサービスやスキルを使ってどのように解決できるかを具体的に伝える力です。専門知識と営業スキルが組み合わさることで、顧客の信頼を得やすくなります。
これらのスキルは一朝一夕で身につくものではありませんが、日々の顧客対応や提案の場数を積み重ねることで徐々に磨かれていきます。
Q. 税理士の営業とは新規顧客獲得のみですか?
A. 新規顧客獲得だけが営業ではありません。既存顧客への単価向上(アップセル)や、新たなサービスの追加提案(クロスセル)も営業活動の大切な一部です。
既存顧客はすでに信頼関係が築かれているため、新規顧客よりも提案が受け入れられやすい傾向があります。顧客満足度を高めながら提供価値を広げていく姿勢が、安定した収益につながるでしょう。
まとめ

本記事では、税理士の営業について、基本的な考え方から具体的な手法、成功のポイント、広告規制まで幅広くご紹介しました。
営業に苦手意識を持つ方も多くいらっしゃるかもしれませんが、顧客の課題に誠実に向き合い、信頼関係を丁寧に積み上げていくことが、税理士の営業の本質です。まずは自分のできる範囲から一歩踏み出してみることが、キャリアの可能性を広げることにつながります。
転職や独立のご相談、営業力を活かせる求人をお探しの方は、会計業界に特化したエージェントへの相談も選択肢の一つです。専門家の視点から、あなたのキャリアに合ったアドバイスが得られるかもしれません。
